きみのためならヴァンパイア




ヴァンパイア居住区といえば、ハンターを嫌うヴァンパイアたちが結束して暮らす街。

私の家はちょっと名の知れたハンター一族だけど、ヴァンパイア居住区には絶対に単独で近づかない。

ヴァンパイア居住区に、私みたいなただの人間が入るなんて、エサが自ら食われに行くようなものだ。


どうやってここを抜け出そう。

私ひとりじゃ絶対に無理だ。

彼の言うとおり、またヴァンパイアに襲われておしまい。


それなら、私ひとりじゃなければ。

……彼がいれば、きっと。

だって、さっきのヴァンパイア男が自ら去っていったくらいだ。

彼がいれば、この街から出るのなんて簡単なはず。


できれば、ひとりでがんばりたかった。

でも、ヴァンパイアが絡めば話は別。

ただの人間が太刀打ちできる相手じゃないから仕方ない。

生きるにはきっと、そう、助け合いだって大切だ。


「――えと、あの、あのあのぉ……」

「なに?」

「もうすこーしだけ、助けてくれたり、しない?」

「しない」


ですよね。


「まぁ、俺に拾われるつもりがあるなら話は別だけど」


私の出方をうかがうような視線からは、圧を感じる。

蛇に睨まれた蛙。そんな言葉が脳に浮かんだ。


……私が選べるのは、ふたつにひとつ。


一人で逃げて、他のヴァンパイアに追われるか。

彼の言いなりになって、代わりに助けてもらうか。


――どっちにしてもピンチには変わりがない。

けれど今、少しでも安全な道はきっと。


「……い、します……」

「あ? 聞こえねーなぁ」

「お願いしますっ!」