きみのためならヴァンパイア




「え、ええ、えっと、こん、婚約……ほんとに?」


紫月は何も言ってくれなくて、少しの沈黙が流れる。

先に耐えきれなくなったのは私のほうで、口を開いた。


「冗談、やめてよ……もう……」


いろんな意味でドキドキして眠れそうにない。

言うだけ言って、きっと面白がってるんだ。

……紫月は、ズルい。


「……お前、熱くね? 水飲む?」


誰のせいだと思ってるんだろう。

私の返事も待たず、紫月はミネラルウォーターのペットボトルを取ってくれた。


「ありがと……」

「ん」

「……紫月って、優しいよね」


意地悪なときもあるけどね。

でも初めて会ったときからずっと、紫月は本当に優しかった。


「……ま、モノは大切にしねぇとな」


その言葉を聞いた瞬間、ひやりとした冷たさが全身を駆けめぐる。

さっきまで浮かれてた気持ちが一気に沈んで、我に返るような感覚だった。


モノは大切に。

うん、そうだよね。当たり前のことだ。


――私は紫月にとってなんなんだろう。

その答えが、少しだけわかったかもしれない。


彼はヴァンパイアで、私は人間。

きっと結局、そういうことだ。


勝手に滲む涙をこっそり拭って、目をつむる。

背中に感じる体温も吐息も、なんだかいつもより冷たい気がした。