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病院のそばに停めたバイク。紫月はその上に置いてあったバッグから、ジャージとスニーカーを取り出し、私に押し付ける。
「え、もしかして、これ乗るの?」
「そう。危ねーからそれ着ろ」
そう言われても、バイクの後ろなんて乗ったことない。
それにお腹の傷も痛みそうで、正直……不安だ。
「……ゆっくり走るから心配すんな。走ってるとき、なんかあったら肩叩け」
私の不安を感じ取ったのか、紫月は私の頭にぽんと手を置いて言った。
……紫月にそう言われると、大丈夫な気がしてくる。
ふいに、水瀬の言葉を思い出した。
『――ねえ、陽奈ちゃん、絆されないでよ?』
……私は絆されてなんかいない。
けれどもう、水瀬に言われるよりずっと前から、紫月のことを信じてるだけだ。
渡されたヘルメットを被り、後ろのシートに座る。
「ちゃんと掴まっとけよ」
……掴まるって。
もしかしてこれ、すごく恥ずかしいやつじゃない?
でもそんなことを言ってる場合じゃない。
意を決して、ハンドルを握る紫月に抱きついた。
「――ふっ、じゃあ、行くぞ」