きみのためならヴァンパイア





水瀬に私の居場所がバレたなら、もうおしまいだ。

私の家出も、紫月と一緒に暮らすのも。

そう思ったら、勝手に涙がにじんできた。


「泣かないでよ、お姫様」

「泣いてないし、その呼び方やめてって言ってるでしょ」

「僕にとっても、君の家族にとっても、陽奈ちゃんは大切なお姫様だよ?」


水瀬は、私と結婚することで暁家に入りたいだけ。

私の家族は、娘である私を『教育』することで、自分たちの家から若くて優秀なハンターが育ったと言いたいだけ。

つまり、大切なのは『陽奈』じゃなくて、『暁家の娘』だ。

まあ、重要なのは血筋と考えれば、お姫様っていうのは案外合っているのかもしれないけど。


「……帰りたく、ない」

「帰れなんて言ってないよ」


水瀬は嘲笑まじりに言って、面白がるように私を見る。


「私が帰らなかったら、どうするの」


……水瀬はどこまで知ってるのかな。

私がどこでどう暮らしているとか、紫月のこととか。

きっと全部知っているし、だとしたら私はタダでは済まされないだろう。


「どうもしないよ? 君の思うようにすればいい」

「……そんなわけないじゃない」

「信用ないねぇ。ここに陽奈ちゃんが入院してることだって、僕が勝手に突き止めただけで、誰にも話してないんだよ? ほら、家出中って聞いたからさ。家族に知られたらまずいでしょ」

「それ、ほんと?」

「もちろん。はじめから言ってるけど、君を連れ戻しに来たわけじゃないから。僕もこう見えて忙しいし、そろそろ帰るよ」


水瀬を信じるつもりはないが、何もしないで帰ると言うなら、引きとめてまで話したいことはない。

とにかく私を連れ戻したいわけじゃないなら、一安心だ。


「……まあでも、陽奈ちゃんが帰らないって言うなら――」


――やっぱり。結局そうなるんだ。

もし水瀬が紫月のことを知っていて何かしようと言うのなら、私はおとなしく帰るしかない。