知らない道を走る。どうせなら、その方がいい。

もう戻りたくない。もう帰らない。

だから、帰り道なんてわからなくていい。


闇雲(やみくも)に走るうちに、雨が降ってきた。

蒸し暑い夏の空気が、ほんの少しだけ冷やされる。

ただでさえ見知らぬ風景が雨粒でぼやけて、本当に知らない世界に来てしまったみたいだ。


あっという間に全身びしょ濡れ。

ふいに目についた古びた倉庫の軒先で、雨宿りをすることにした。


ずいぶん走ったと思う。

一度立ち止まったら、どっと疲れが押し寄せる。

思わずその場に座り込んだ。


……これからどうしよう。

せめてお金とか、持ってくるべきだったよね。


なんかもう、ボロボロだ。

髪はぐちゃぐちゃ、制服はびしょ濡れ、ローファーは泥まみれ。

せっかく逃げ出したって、自由なんて言葉とはほど遠い。

自由になるって、意外と大変だ。


前髪の先から滴る雨。

それを見ていた瞳からも、一滴のあたたかい水が落ちる。


なんで泣いてるんだろ。かっこわるい。

きっと叩かれた頬がまだ痛いんだ。そういうことにしよう。


せっかく一歩を踏み出したんだから、こんなところでくじけてる場合じゃない。

雑に涙を拭って、立ち上がった。


その時、後ろで倉庫の扉が開く。


「あれぇ? おいしそうな匂いがするなぁ……」