きみのためならヴァンパイア




「な、なんか、ごめんなさい……」

「気にすんな。あいつが悪い」


出来事を把握していない様子のマスターは、急用かな?なんて言ってニコニコしてる。

私がここで働くのって、前途多難――かもしれない。


でもそれは、杞憂(きゆう)だったみたい。


あれから来たお客さんたちはちゃんと案内できたし、危ない目に遭うこともなかった。

空き時間にマスターからラテアートを教わったりして、穏やかで楽しい時間を過ごすことができた。


帰り際、マスターに声をかけに行った。


「あの、今日はありがとうございました! こんなに素敵なお店で働けるなんてうれしいです」

「いやぁ、こちらこそありがとうね。助かったよ」


マスターはおもむろに、帰り支度をしている間宵紫月を見た。


「僕が言うのもおかしいかもしれないけど……陽奈さん、紫月君のこと、助けてあげてね」

「えっ……」

「ああいや、ガールフレンドなんだから、もちろん支えにはなっていると思うんだけど。紫月君、強そうに見えるけど、やっぱり一人って寂しいものだったと思うんだよね」


一人……って、なんのことだろう。

一人暮らししてるからかな?


「もちろん、できることならなんでも! いっぱい助けます!」


なんだかマスターに言われると、やる気がわいてくる。

拳を掲げると、後ろから手首を掴まれた。


「誰が誰を助けるって?」