きみのためならヴァンパイア




「あー、新しいバイト……」

「紫月君のガールフレンドだよねぇ」


マスターが、最悪なタイミングで口を挟む。

多分、いや絶対、それ言わない方がよかったと思う。

ほら、女の子の視線がよりいっそう痛くなる。

それどころか女の子、こっちに歩いてきちゃったよ。


「なんなのあんた、名前は!?」

「あ、あかつ――」


暁陽奈、そう言いかけた私を押し退けて、間宵紫月が口を開く。


「間宵、陽奈」

「ま、ま、間宵……!? 紫月、結婚したの!?」

「あれ? ガールフレンドじゃなくて、お嫁さんだったっけ?」


なになになに、どういうこと?

みんな、何を言ってるの?

まず間宵紫月はどうしてまた嘘をついてるの?


彼を見ると、お前は黙れという視線で貫かれた。


「こいつ、俺のイトコ。で、彼女」

「イトコがいるなんて聞いたことない!」

「別にいいだろ、いても」

「イトコはいいけど彼女はダメ! なんで樹莉(じゅり)じゃなくて、あんなしょぼい女なの!?」


しょぼい女って。まあ確かに、おしゃれとか全然できてないけどさ。

あの樹莉って女の子はきっと、間宵紫月のことが好きなんだろうな。

なんか常連さんっぽいし、突然私が彼の恋人なんてことになっちゃって、罪悪感が生まれる。


「なんでもいいだろ、俺の勝手。で、注文は?」

「今日はいらない! 帰る!」


樹莉ちゃんは帰り際、私をきつーく睨んでいった。