きみのためならヴァンパイア




マスターが並べたのは、『ともり』の文字とワンポイントの刺繍が入ったエプロン。

花にヒヨコ、雲に星など、ワンポイントはどれもファンシーなモチーフだ。

制服のエプロンはマスターお手製と聞いて驚いた。

どれもかわいくて、決めるのが難しい。


間宵紫月の方を見ると、彼のエプロンには月のモチーフがあった。

名前に『月』が入るからかな、なんて思っていると。


「お前はヒヨコだろ、やっぱり」


彼から、ヒヨコのエプロンを押し付けられた。

……ヒナだから、ってこと?

そういえば、初めて会ったときもそんなこと言ってたっけ。

どうせ自分ではなかなか選べないから、ヒヨコに決めることにした。


マスターからお店の中のことや仕事の手順を一通り聞き終えた頃、カランと鈴の音を鳴らしてドアが開いた。


――お客さんだ。


マスターから行ってみてと言われ、緊張しながらもお客さんの元へ向かう。


その子は、すごく可愛らしい女の子だった。

少し年下かな、というくらいの顔立ちで、ツインテールが似合っている。

ただ、どこか怒っているような、ツンとした雰囲気がある。


「いらっしゃいませ! 一名様で――」


私が言い終える前に、女の子は勝手に店の隅の席に座った。

呆気にとられていると、女の子は不満そうに口を開く。


「ねえ、紫月いる?」


感じの悪い物言いだったが、マスターは気にする様子もなく、裏で作業をしていた間宵紫月を連れてくる。


「紫月! あの女、誰?」


……私、なにか悪いことしたかな?

そんな暇さえなかったと思うが、女の子はあからさまに私を睨んでる。