きみのためならヴァンパイア




「嘘?」

「私のこと、かっ、彼女って……」

「あー、あれな」


別になにかを期待してるとか、本当になったら、とか、そんなの全然思ってない。

全っ然、思ってない、はず。

ただ、気になって仕方なくて、心臓の鼓動がうるさいだけ。


「お前が居候とか言うから……マスター、ああ見えて意外とうるせぇの。正直に話すと、付き合ってもない男女が、とか言い出しそうだし」


……つまり、恋人同士が同棲してる設定ってことね。


「へ、へぇ! そうなんだ!」

「変な顔して、どうした?」

「してないし!」


間宵紫月は恥とか照れとかひとつもないような、飄々(ひょうひょう)とした態度で、ちょっと悔しい。

けれどそんな風に思ったら、まるで私が間宵紫月のことを好きみたいじゃないか。


彼はヴァンパイアの王様。

私は家を捨てたところで、ヴァンパイアハンター一族の元で生まれ育ったことは変わらない。

つまり、抱いたらいけない感情がある。


だからそんな気持ちには蓋をして、晩ごはんの献立に思いを馳せた。





喫茶ともりで、人生初のアルバイト。

ここはヴァンパイア居住区の近くということもあり、夜間も営業しているらしい。

そして、客の大半はヴァンパイアだそうだ。


間宵紫月から、マスクと伊達メガネを渡された。

とにかく露出を減らして、なるべく私が人間だとバレないようにするらしい。

ヴァンパイアだって、全員が見境なく人間を襲うわけじゃない。

けれど彼曰く、私からは『うまそうな匂い』がするから、警戒するに越したことはないみたい。


「それじゃあ、選んでくれる?」