「嘘?」
「私のこと、かっ、彼女って……」
「あー、あれな」
別になにかを期待してるとか、本当になったら、とか、そんなの全然思ってない。
全っ然、思ってない、はず。
ただ、気になって仕方なくて、心臓の鼓動がうるさいだけ。
「お前が居候とか言うから……マスター、ああ見えて意外とうるせぇの。正直に話すと、付き合ってもない男女が、とか言い出しそうだし」
……つまり、恋人同士が同棲してる設定ってことね。
「へ、へぇ! そうなんだ!」
「変な顔して、どうした?」
「してないし!」
間宵紫月は恥とか照れとかひとつもないような、飄々とした態度で、ちょっと悔しい。
けれどそんな風に思ったら、まるで私が間宵紫月のことを好きみたいじゃないか。
彼はヴァンパイアの王様。
私は家を捨てたところで、ヴァンパイアハンター一族の元で生まれ育ったことは変わらない。
つまり、抱いたらいけない感情がある。
だからそんな気持ちには蓋をして、晩ごはんの献立に思いを馳せた。
◆
喫茶ともりで、人生初のアルバイト。
ここはヴァンパイア居住区の近くということもあり、夜間も営業しているらしい。
そして、客の大半はヴァンパイアだそうだ。
間宵紫月から、マスクと伊達メガネを渡された。
とにかく露出を減らして、なるべく私が人間だとバレないようにするらしい。
ヴァンパイアだって、全員が見境なく人間を襲うわけじゃない。
けれど彼曰く、私からは『うまそうな匂い』がするから、警戒するに越したことはないみたい。
「それじゃあ、選んでくれる?」



