「もっと、ちゃんとしたものないの? 野菜とか!」
「草はいらねぇ」
野菜のこと草って言う?
呆れながら冷蔵庫を開けると、すかすかの棚にほうれん草とベーコンを見つけた。
「それはもらったやつ」
間宵紫月はいつの間にか私の後ろに立っていた。
「じゃ、これでなにか作るよ」
「あっそ。ま、勝手に使え」
彼は興味なさげにキッチンを去る。
食に、あまりこだわりも興味もないみたいだ。
でも私をうまそうなんて言うくらいだし、もしかすると血の味には好みがあるのかな。
こうして実際に接してみて、私はヴァンパイアのことをなんにも知らなかったと実感する。
私の家族は、どうなんだろう。
ヴァンパイアのことを知った上で、ハンターをやっているのかな。
……考えかけて、やめる。
私は家を出たんだ。
家族とかハンターとか、もう私には関係ない。
私はキッチンを探索して調理道具をかき集め、ささやかな夕飯を作ることにした。
探してみれば、意外にも最低限のものは揃っていた。
なんとか作ったのは、ほうれん草とベーコンの炒めもの、タマゴスープ。
ちょうど完成して盛りつけるお皿を探していると、間宵紫月がやって来た。
「これ、二人分?」
「うーん、あるだけで作ったから少ないかも。私はいいよ」
空腹ではあるが、わがままは言ってられない。
ただでさえ助けてもらい、シャワーや着替えを提供してもらった身だ。
まあ、血は吸われたけど。
「お前が食えよ。俺はこっち」
彼はそう言って栄養補助食品を手に取るから、それを取り上げた。
「いつもこれなんでしょ? たまにはちゃんとしたごはん食べなよ」
「……俺からすれば、ちゃんとしたメシってお前のことなんだけど?」



