きみのためならヴァンパイア




私は紙の束を持ったまま、物陰に身を潜める。


「……誰か、いるの?」


そう言って階段を下りてきているのは、私の母親だ。

それまで恐る恐るといった感じだった足音が、バタバタと騒がしく変わった。

開けっぱなしの金庫に気づいたのかもしれない。


それから聞こえたのは、階段を駆け上がり扉を閉める音。

そして、また階段を下りながら母親は言う。


「まだここにいるなら出てきなさい。……正直者を(とが)めたりしないわ」


……嘘つき。

お母さんはいつも、お父さんの言いなりだ。

銀の弾丸の製法を持ち出そうとしたなんてバレれば、ただじゃ済まないに決まってる。

けれどそれも、捕まってしまったらの話だ。


ーー大丈夫。今の私なら、できる。


物陰から飛び出した私を察知した母親が、その手に握った木刀を振るった。

今までの私では考えられないくらいに、その軌道がゆっくりに見える。

ーー私は木刀をかわして、そのまま、跳んだ。

自分でも驚くほどの跳躍力で、母親の頭上を飛び越えて、母親の背に手をついて宙返りをする。


「ーーごめん、お母さん」


私はよろけて床に手をついた母親に別れを告げて、地下室を後にした。