目に飛び込んできたのは、大きな満月。

手を伸ばせば届きそうに思えるのに、その距離は遠く、触れることなんて叶うはずもない。

満月の晩に、紫月の腕の中で夜空を駆けたのを思い出す。


……会いたい。

会いたいよ。

私のこと、忘れててもいいよ。

また一緒に、ただ一緒に、ふたりでいたいだけなのに。


思わずしゃがみこんだとき、首から下げたお守り袋が手に触れた。

中にあるのは紫月の血液が入ったカプセル。

これだけは家族に没収されないように、どうにか隠し持っていた。

見れば見るほど、考えれば考えるほど頭を巡る思い出の中で、ひとつ、引っかかった。

それ(・・)に気づいたとき、頭が冴え渡るような感覚をおぼえる。


……ねぇ、紫月、力を貸して。

私はヴァンパイアのことが怖くて嫌いだったけど、紫月と過ごして、その考えは変わったよ。

人間だって、ヴァンパイアだって、いい人もいて、悪い人もいて、いいところもあって、悪いところもあって、それはみんなおんなじだった。

だから今は、ヴァンパイアを怖いと思わない。

私、怖くないよ。


ーー紫月(きみ)のためなら、ヴァンパイアになるのだって、怖くない。


私はお守り袋の中からカプセルをひとつ取り出して、一思いに飲み込んだ。