きみのためならヴァンパイア




「食ったりしねーよ」

「……ほんと?」

「ヴァンパイアは血を吸うだけな」


そんなの、私からすれば同じようなことだ!

ヴァンパイアに血を吸われた人間は、普通じゃいられなくなってしまうのだから。


「そっ、それも、ダメ!」

「ふっ、ピーピーうるせぇヒヨコだな。そんな心配する前に、シャワーくらい浴びろよ。泥ついてんぞ」


わ、笑われた……。

しかもシャワーを浴びろだなんて、ちゃんと綺麗にしてからいただくつもりなんだ、きっと。


……やっぱり、ヴァンパイアの王なんてとんでもない奴と一緒にいるなんて無理すぎる。


諦めの悪い私が必死に逃げ道を思い浮かべようと悩んでる間に、彼は私の背中をぐいぐい押す。

廊下の奥へ追いやられた。

それから間宵紫月が開けたのは、バスルームに繋がる洗面室のドアだった。


「とにかくシャワーを浴びろ。そんな格好のままで家を汚すな」


彼は洗面室に私を押し込んで、そう言い残した。

……私の頭の中は、不安で一杯だ。


けれど今さらもう、どうしようもない。

逃げられないと決まっているなら、びしょ濡れのままでいるよりもさっぱりした方がいいに決まってる。

なんだかとても疲れたし、もうそれ以上深く考えることはやめて、とりあえずシャワーを浴びることにした。