きみのためならヴァンパイア




これから何をされるのか想像した瞬間、緊張で固まってしまったようだった脚が考えるよりも先に動いた。

ドアの方向へ一歩を踏み出――そうとして、つまずく。

床へ転ぶ寸前、間宵紫月に抱えられ、転倒は(まぬが)れた。


「あっぶねーな……」

「はっ、離して!」


私がちょっと手足をばたつかせると、彼は本当に手を離す。

そのまま私は重力に従って床に落ちた。


「いった……何すんの!」

「お前の言うとおりにしてやったんだけど?」


間宵紫月はため息まじりに言いながら、電気を点けた。


「今さら逃げようとしたって、無理に決まってるだろ」


彼の言うとおりだ。

私は、差し伸べられた手を取るしかない。


手を掴まれ、引き寄せられて、不適な笑みを浮かべる顔が目の前に来る。

金の瞳は見れば見るほど、引き込まれそうだ。


「もう逃げんなよ?」

「わ、わかった! けど――」


逃げられないのはもう、充分過ぎるくらいにわかった。

でも本当に、これだけはお願いしたい。


「――けど、食べないで!」


言うこと聞くって言ったって、食べられちゃったらおしまいだもん。