きみのためならヴァンパイア




ヴァンパイアの、王?

その言葉を理解するよりも先に、嫌な汗が滲むのを感じる。

それから私はあることを思い出して、すとんと()に落ちる感覚を覚えた。


――そうだ、私、はじめから知ってたんだ。


間宵、といえば、ヴァンパイアの王族だってこと。

それは今まで家族から散々聞かされていたのに。


けれど、今になって思い出しても、もう遅い。


私に逃げ道なんてない。

それを絶つことを選んだのは自分自身だ。


ドアが閉じた今、光はない。

暗闇の中の静寂で、自分の鼓動がやけにうるさく感じる。


「……なあ、お前、気づいてる?」


間宵紫月が、私の輪郭から首筋に手を這わせる。

そのまま、私の濡れた髪が払われた。


「なっ、何に?」


緊張と恐怖と、色々な感情が入り交じって、つい声がうわずる。


「お前の血、死ぬほどうまそうな匂いがする」


その言葉は、私の耳元で小さな吐息と共にささやかれた。


――っ、食われる!