きみのためならヴァンパイア




そこにあるのは、例えるならば幽霊屋敷――みたいな、家だった。

草木が生い茂る庭、どことなく洋風な建物のつくり。

辺りが薄暗いせいもあって、一言で表せば、不気味でしかない。


屋敷というには小さなその家の庭に、間宵紫月は門扉を開いて入っていく。


「ね、俺の(・・)家って……他に誰か住んでたりしないの?」

「他に誰がいるんだよ」

「えーと、家族とか」

「……いねぇよ、そんなもん」


ぶっきらぼうに言う彼を見て、余計なことを言ってしまったかと後悔した。

でも、必要な確認だった。

だって他に誰もいないなら、今からこの家の中に二人っきりになってしまう。


……本当に大丈夫かな。

間宵紫月が実はヴァンパイアで、さっきみたいに襲われたらどうしよう。


間宵紫月が玄関の鍵を開けるのを不安な気持ちで見ていると、彼は私の方に振り向いた。


「ビビってんの? 今さら」

「えっ……いや、そんな……」

「さっきみたいに襲われたらどうしよう、とか?」


――図星。

だけど、はいそうですと言うわけにもいかない。


「あんなカスと一緒にすんな。俺を何だと思ってるんだよ」

「何って……うーん……」

「そういやさっき、なんか言いかけたろ。俺が言った『トップ』の意味を知りたかったのか?」


私は返事と共にうなずく。

間宵紫月は話しながら、玄関のドアを開け、中に入る。


「トップってのはな、王って意味」


……王?

頭の中で彼の言葉を反芻(はんすう)しながら、私も続いて、家の中に足を踏み入れた。

その瞬間――肩を掴まれて、体を壁に押しつけられる。


「――つまり俺が、ヴァンパイアの王ってことだよ」