きみのためならヴァンパイア




陸君が抵抗をする暇もなく、紫月は振り上げた拳を陸君の脇腹に向かって打ち込む。

骨が折れるくらいはしたんじゃないかという強さに思えた。


「しっ、紫月……」


誰のためにやったのか、それと紫月の負った怪我のことを考えると、やりすぎじゃないか、とは言えなかった。


「陽奈に触れた分な。俺の肩を撃ったのは許してやるよ」

「……そ、れは、どーも……やさしーね」


陸君は、脇腹を押さえたまま立ち上がれないようだ。

相当痛かったはず。

それでも軽口を叩くのはいっそ尊敬すら覚える。


「もうお前に用はねぇ。樹莉を連れてここから消えろ」

「……思いっきり殴っといて、ちょっとひどくない? 優しくなんかねーわ、やっぱ」


陸君はそう言いながらも、戸惑う様子の樹莉ちゃんを促してこの場を離れる。

血を飲んだ以上、紫月の言うことには逆らえないのだろう。

二人が完全に部屋を出るのを見送ってから、紫月は私の手を引いてソファに座った。


それから、沈黙。

話したいことはたくさんあるけど、最初の言葉がうまく出てこない。


「……ごめん」


静寂を破ったのは、紫月からだった。