きみのためならヴァンパイア




「……俺が陽奈といる理由は教えない。けど、樹莉、お前といられない理由なら教えてやるよ」


樹莉ちゃんは血がにじむほど唇を噛んで、紫月の言葉を待っている。


「お前が、他人のこと傷つけるのを(いと)わないからだ。……あの時(・・・)お前だって、見てたはずだろ」


ーーあの時。

それは私の知らない、二人の過去のことだろうか。

二人の間に、何があったのだろう。


「見てたよ!? だから私はあの時から、傷つける側になるって決めたの!」

「……だからお前とは相容れないって言ってんだよ」

「でも、私っ、紫月のことが本当にーー」

「黙れ」


紫月の一言で、空気が張り詰める。


「……お前は、俺に、蒼生(あおい)の面影を見てるだけだ」


私の知らない人の名前だ。

その人は、樹莉ちゃんの大切な人だったのかな。


「そんな、こと……」

「だからもう、俺に執着するのはーー」

「嫌だ! やめて! 私は、紫月がいないと嫌だ! だってもう、蒼生はいないじゃない! だから、許してよ……」


樹莉ちゃんにはひどいことをされたけど、樹莉ちゃんの悲鳴にも似た懇願(こんがん)に、キリキリと心を締めつけられるようだった。


「……樹莉。俺はお前を許せないし、許さない。だから今から、命令する。もう二度と俺に関われないようにな」

「嫌だよ、そんなの……紫月と会えなくなるんならーー死ねって言ってよ! 言ってくれるよね!? だって紫月は優しいもん!」


……樹莉ちゃんは、ずるい。

会えなくなるなら死ぬなんて、そんなの脅しだ。

しかもそれを、紫月に背負わせようとしている。

紫月の優しさを踏みにじろうとしているんだ。