きみのためならヴァンパイア





間宵紫月は、スタスタと器用に歩いていく。

避けるそぶりなんてないのに、水溜まりひとつ踏みやしない。


対して私は、着いていくのに精一杯で水溜まりなんて気にしていられなかった。

そもそも全身びしょ濡れだから気にする必要もないんだけど。


「もう少し静かに歩けよ」

「し、仕方ないでしょ、あなたが歩くの早いんだもん!」

「は? 知るか」


そうは言いつつも、どことなくスピードダウンしてくれた気がする。

本当にほんの少しだし、気のせいかもしれないけど。


「もう日も暮れてんだぞ? 夜になったら虫が出るだろうが」


……たしかに。

ヴァンパイアたちは、日光が苦手だ。

だから夜になると外出が増えると、父親から教わった。


「わかった、急ぐ……」


でも、ヴァンパイアが出たとしても、間宵紫月からすれば怖くないんじゃないか。

さっきと同じようにすればいいだけだ。


……というか結局、さっきのアレはなんだったんだろう。

ヴァンパイア男に何を飲ませて、どうやって言うことを聞かせたのか、まだ判明していない。


それに、間宵紫月は気になることも言ってた。

自分のことを『てめーらのトップ』とか、なんとか。


「ね、ねぇ! さっき話してた、トップってどういう意味――」


私の言葉の途中で、突然、間宵紫月が立ち止まる。

突然止まるから思わず(つまず)いて、彼の背中に顔をぶつけた。


「着いた」

「え? ここって……」

「俺の家」