「拾われる気になったって?」
「……うん」
「不満そうだな」
「それは、もちろん」
何を命令されるのかわからないのは怖い。
けど、今は彼の言うことを聞いて、機会をうかがうことにする。
「ふっ、正直か」
……笑った。
さっきまでのような嘲笑とは違う、素直な笑みだ。
それを見て少しだけドキッとしたのは、きっと気のせい。
「じゃ、契約成立ってことで」
「……契約、って……」
そんな大げさな言い方をされると、逃げたい気持ちがわいてくる。
「お前は俺の言いなり。でも他の奴には襲わせない。そういうことだろ」
「言いなりって、つまり私――奴隷、ってこと?」
「……そうだな、召し使いくらいにはしてやるよ」
着いてこい、そう言う彼の背中を見て、私の選択が間違っていないか思いを馳せる。
――どうかこの人が、悪い人じゃありませんように。
そう願いながら、彼の名前を訊ねる。
「あの、名前は……? なんて、呼べばいい?」
「間宵 紫月。好きに呼べ」
まよい、しづき。
どこかで聞いた名前だな、なんてぼんやり考えながら、私は早足の彼の後を必死に追うしかできなかった。



