下校後、親友の遥と途中で別れ、自宅に向かう私に、
一生忘れられない衝撃の事件が起きた。

かといって、とんでもない犯罪に巻き込まれたとか、事故でケガをしたとか、
そういう悪い事ではない。

……話を戻そう。

学校から、私の自宅へ、帰路の途中に公園がある。

芝生が一面に植えられた緑地を備える、そこそこ広い公園であり、
道路に面した公園の片隅には、バスケットのコートがある。

時刻は、午後4時を回っていた……
夕日で真っ赤に染まったバスケットボールのコートが美しい。

私は、バスケットボールの事はあまり知らない。
でも、絵になる光景で、凄く素敵だと思った。

後で聞いたら、このコートは、3×3用。
「スリー・バイ・スリー」や「スリー・オン・スリー」というみたいだけど、
つまり、少人数で行うバスケットボールのコートがある。

周囲をネットで囲まれているが、自由に使う事が可能なようだ。

いつもは子供たちを始め、多くの人でいっぱいなのだが、今日は……

その「スリー・バイ・スリー」のバスケットボールのコートで、
トレーニングウエア姿の長身男子がたったひとり、
……何度もシュートを放っていた。

見ていると、長身男子は相当な腕らしく、立て続けにシュートを決めている。

いつもならば、「ああ、練習してるのね」とスルーし、
そのまま興味なく、通りすぎる私なのだが……

夕日に染まったバスケットボールのコート。
その中で、ひたすらシュートを投じる男子が素敵な絵になって、感動し、
しばらく、じ~っと見つめていた。

でもでも!
改めてシュートを投じる男子をよ~く見やれば、そのシルエットに見覚えがあった。

え!?

後ろ姿に、見覚えがある!

も、もしかして!?

そ、颯真(そうま)君!?

あの人は、颯真君じゃないの!?

でもでも!
体調不良で、学校を早退したはずの颯真君がなぜ!?

こんなところで、バスケットボールをしているの!?

時間だって、結構経っているはずなのに。

気付かれないように、そ~っと近づいて、再度、目を凝らし、
バスケットボール男子を見つめた私……

間違いない!
私は、隣の席に座った颯真君を何度も見ている。

岡林颯真(おかばやし・そうま)君に間違いない!!

確信した私は、こぶしを握り締め、脱兎のごとく駆けだしていた。

そして男子へ近寄ると、

「颯真君!」

と大きな声で叫んだ。

「うわ!」

と、颯真君は叫び、一瞬固まった。

そして振り返ると、

「り、凛ちゃん!」

と、驚いたように再び叫んだ。

「ど、どうして……ここに……」

と、力なく声を発する颯真君へ、私は思わず、

こっちが聞きたい! とばかりに、質問には答えず、

「心配したんだよ!」

と大きな声で叫んでいた。

すると、「心配したんだよ!」
と叫んだ私に対し、颯真君は一気に脱力。
緊張感が解けたのか、大きく息を吐き、ふにゃっとなった。

いつのものクールさとは違う。
結構なギャップを感じ、どきどきときめく私。

やっぱり私は『ギャップ萌え』に弱い女子……
心からそう思う。

じいっと見つめる私に対し、ばつが悪そうな颯真君。

「見つかっちゃったな」

と、照れくさそうに笑った。

「いきなり帰っちゃうから!」

と、私は言い、

「心配したんだよ!」

と、もう1回!
叫んだ。

一体、どうなっているの?
聞きたい事、知りたい事がいっぱいある。

公園には他に誰も居ない。
ふたりっきりで、話す事が出来そうだ。

「颯真君、時間ある? ちょっと話そうよ」

「あ、ああ……良いよ」

そんな会話を交わし、
バスケットボールコートを出て……
公園内の自販機で、颯真君はスポーツドリンク、私は缶コーヒーを買い、
ふたりで、公園のベンチに座った。

「この公園、自宅の帰り道の途中にあるの」

「ああ、そうなんだ。俺もそうさ。一旦、自宅へ戻り、着替えてからボールを持ち、出て来たんだ」

「そうだったの」

「ああ」

「あのね、颯真君」

「うん」

「私、あれから、遥とふたりで学校の中をあちこち捜したの。そうしたら、先生から颯真君が早退したって聞いて心配だった。身体の具合は? 体調はどうなの?」

元気にバスケットボールをしていたくらいだから、多分大丈夫!
と、確信しながらも、私は尋ねずにはいられなかった。

「ああ、大丈夫さ」

と颯真君は笑い、

「凛ちゃんと遥ちゃんに悪い事をしたな。心配かけてごめん」

と謝ってくれた。

そして、

「ずるして早退したの、ばれちゃったな」

と、いたずらっぽく笑ったのである。