学食において、メニューはバラバラ、3人は各自思い思いのモノを食べる。

海斗君が、にっこり笑う。
そして、いきなり颯真君の話を振って来た。

「ふたりのクラスの転入生、女子たちに凄い人気だな」

対して遥が、

「うん、そう、ウチのクラス女子95%がキャーキャー言ってる」

と、答えると、

「そっかあ……俺のクラスの女子たちも、遥のクラスに見に行くって騒いでたな」

「へえ、海斗のクラスの女子も颯真君が人気なの?」

「おお、転入生は颯真君って、いうのか? ……ああ、モノ凄いよ、ウチのクラスの女子にも大人気だ」

「モノ凄い、大人気かあ……じゃあ海斗も、以前はそうだったから、颯真君の気持ちがよ~く、分かるでしょ?」

「ま、まあな……」

「実は……もてたいでしょ? 私以外の女子にさ」

「あはは、勘弁してくれよ、遥」

彼女の遥から、突っ込まれ、海斗君は苦笑し、ご飯を「もぐっ」と食べた。

……そう、高校入学直後、イケメンでスポーツマンの海斗君はもてた。
1年生ながら、陸上部で抜きん出て来ると、なおさらだった。

当然女子たちが、海斗君を放っておくわけがない。

今の颯真君みたいに、女子たちは押し寄せた。
遥という『ステディーな彼女』の存在を知らなかったから。

しかし、海斗君は、

「ごめん! 申し訳ないけど、俺には大好きな彼女が居るから」

と女子たちのアプローチをきっぱりと断ったのだ。

そして、同じ学校の事もあり、やがて遥と海斗君の交際は……知れ渡った。

しかしふたりは、清く正しく美しく、堂々と校内で接した。
両親公認の事もあり、学校も文句を言わなかった。

遥に嫉妬して、いじわるをしようとした女子も居たが、
海斗君がびしっと! かつ誠実な態度で接したので、納得して撤退したのである。

遥も……
海斗君と恋してから、凄くキレイになった……そう思う。

その遥も、にっこり。

「私はね。颯真君ラブの95%女子に入ってないから、大丈夫。安心して、愛してるよ、海斗」

「あはは、そうか、ありがとう、遥、大大感謝だな! 俺も愛してるぞ!」

軽口を叩く、遥と海斗君。

付き合って、3年目。
ふたりとも、余裕があるなあ……って感じ。

正直、うらやましい。

ここで、海斗君が提案して来た。

「なあ、また楽葉原へ遊びに行かないか」

遥は速攻OK!

「うん! 行く! 行く! 当然、凛も一緒ね♡」

……私は、いつも即答しない。

「ええっと……いつも私と一緒に遊んで貰って、凄く嬉しいんだけど……」

口ごもる私に、遥は腕組み。

「おいおい! だけど、何?」

対して、私は、おうかがいを立てるのだ。

「少し心苦しくて……やっぱり、私、ラブラブなふたりのお邪魔虫(じゃまむし)じゃない?」

すると!
遥は、ぶんぶんと首を横へ振った。

「凛ったら! 何言ってるの、違うって! 『おたく師匠』の凛が居なかったら、楽葉原の探索が完璧に不可能じゃない、私と海斗は! ねえ、海斗」

「ああ、『おたく師匠』の凛ちゃんが居ないと、俺たち、楽葉原で、迷子になっちまうからな」

私が、遥と海斗君の『おたく師匠』??

いやいや!
そんな事は全くない!

海斗君は私に勝るとも劣らない『おたく』だし、
もはや遥も彼氏と私の影響で、立派な『おたく』だ。

ここで、凛が「あ!」と小さく叫ぶ。

「ああ、迷子と言えばさ、思い出したんだけど、海斗」

「ん?」

とここで、今度は遥がおうかがいをたてる。

「凛、颯真君の『正体』だけ、海斗へ言っても構わない?」

「う、うん……」

正体だけ……そう、私が6歳の頃、迷子になった話は、過去の『思い出話』または『笑い話』としてこの3人で共有していた。

恋云々(こいうんぬん)は内緒だとしても、
颯真君が、私を助けてくれた『王子様』だったくらいは、
海斗君へ言っても構わないかあ……

「うん、遥、話して良いよ」

私が了解すると、遥は笑顔で頷く。

「OK! ……海斗、颯真君はさ、凛を助けた王子様なんだよ」

「え? 颯真君が王子様? 凛ちゃんを助けた?」

ぽかんとする海斗君。

すると遥がもどかしそうに言う。

「ほらあ! 私と凜が出会う前、6歳の迷子事件……前に、凛から聞いたでしょ? 私と一緒にさ」

不満そうにほっぺたをふくらませた遥。

そんな遥に、慌てる海斗君。

「お、おお、そうだ! 思い出した! 遥と一緒に、凛ちゃんから聞いたな! それ本当かよ、凄いな」

「うん、本当に凄いよ、10年ぶりの劇的な再会なんだもの」

「成る程、10年ぶりの再会か! それ、運命的だな! とてもドラマチックじゃないか」

「でしょ! やっと分かった?」

「あはは、分かった、分かった。俺も6歳の頃、親に連れられて、そのショッピングモールには、良く行っていたよ」

「へえ、そうなんだ、海斗も行っていたのね、ショッピングモール」

「ああ、行ってた。その時さ、凛ちゃんを助けたのが、もしも俺だったら、先に凛ちゃんと知り合っていて、遥にはこうして、捕まってなかったのかもな」

「何それ? 私に捕まったって、ひっど~い。私の方が、無理やり海斗に捕まったんでしょ?」

「ああ、平和の為に、そういう事にしておこう」

「何が平和の為よ! こら、海斗! ぶつよ!」

遥が拳を振り上げたので、海斗君はごめんなさいポーズ。

「おいおい、勘弁、勘弁」

あはは、面白い!

遥と海斗君の会話って、かけあいの漫才みたい。
3人は、大笑いした。

と、その時。

颯真君が、女子多数、そして、女子にくっついて来た男子数名とともに、
学食へ入って来た。

そして、遥、海斗君と大笑いする私を「じいっ」と……見たのである。