ーー翌朝、空一面厚い雲に覆われている中、学校まで残り50メートル付近の通学路で後から男子に声をかけられた。



「早川、おはよう」



振り返ると、そこには笑顔で駆け寄ってくる二階堂くんの姿が。
今日も白い歯がキラリと光る笑顔が眩しい。



「二階堂くん、おはよ。今日はニュースで午後から雨が降るって言ってたのに、雲行きが怪しいからもう降りそうだね」

「帰りまで止むといいけどね。今日は大きい傘を持ってきたの?」


「うん、念の為に」



彼は歩調を合わせるとゆっくり歩き始めた。

朝から憧れの人と肩を並べて歩くなんてテンションが上がっちゃう。
彼が登校中に声をかけてくれるのは今日が初めて。
今は3週間前では考えられないくらい私たちの関係は良好になっている。
友達以上恋人未満に近づいているかな?

すると、彼は言った。



「昨日は何してたの?」

「えっ」



急な質問に戸惑った。
昨日と言えば、夜遅くまで日向の帰りを待っていたから。
嘘をついてその場を凌ぐのもありだけど、いつかボロが出たら困ると思って口を塞いだ。



「あっ、無理に答えなくてもいいよ。ただ、早川の事を少しでも知りたくて……」

「……うん、ありがと」


「そうだ! 今度また2人でどこかに出かけない?」

「うん! バイトがない日ならいいよ」



反射的に言ってしまったけど、二階堂くんには新しいバイトを始めた事をまだ伝えていない。
だから、思わず両手で口を塞いだ。

二階堂くんは、私が日向の家で家政婦をしてると知ったら何て思うかな。
……いや、考える以前の問題か。



「もう次のバイトを始めたの? どんな仕事?」

「全然大したバイトじゃないっていうか……。まぁ……、奉仕活動みたいなものかなぁ(家政婦なんて言える訳がない)」


「えっ、奉仕活動?」

「うっ、ぅうん……。実はつい先日、父親が会社辞めちゃったから母と兄と私で力を合わせて家計を支えててね。急に辞めてきちゃうなんて、本当に情けない父親だよね。私は受験生なのに家の為に働かなきゃいけないなんてさ」



父親は職安通いをしていても仕事はなかなかみつからないし、母も兄も私も毎日忙しくてクタクタ。
でも、生活していかなきゃいけないから、弱音を吐いてはいられない現実。



「偉いね。早川のそーゆー所、尊敬できる」

「えっ、えっ!! 全然そんな事ないよっ! 二階堂くん少し誤解してる」


「……そ? 早川はどんなに嫌な頼まれ事をしても快く引き受けるし、小さい子にイタズラをされてもむやみに怒ったりしないし、手紙の件だって自分が書いたものじゃないって素直に伝えに来てくれた。そーゆー所はちゃんと見てるし、尊敬もしてるよ」



ううっ……。
二階堂くんって、やっぱり神様かもしれない。
こんなに優しい言葉のアソートセットをプレゼントしてくれるなんて夢のまた夢。
もし、これがあいつだったら……。
……うっ、ううん。
絶対に考えない方がいい。
どうせあいつは毒しか吐かないんだから。



「ありがとう。……実は私も二階堂くんがバスケしてる姿がかっこいいなって思ってた。これでも女子の人ごみに紛れてこっそり応援してたんだよ」

「えっ、本当?!」


「うん。それにクラスみんなに好かれていて羨ましいなって。そんな矢先、あの手紙が二階堂くんに送られてて。……あっ、この話は嘘じゃないよ」

「そっか、嬉しい。じゃあ、お互い少しずつ気になってたんだね」


「うん、そうだね」



私たちは赤面しながら校舎の下駄箱に到着した。
側からしたら初々しいカップルに見えるかもしれない。
二階堂くんがあまりにも優しいから最高に幸せ。

その一方で、教室の窓から陽翔の隣で幸せそうに微笑んでる結菜の姿を見ていた日向は、2人の良好な関係性に気が止まった。