「ま、俺は噂通りのやつだからな、慣れてはいる」

「…でしょうね」

「梅野は?」

「え?」

「おまえ、あんま色恋とかそーいう気配も噂もないけど、好きなやつとか、いたことねーの?」



ぽっと出たのは、そんな疑問。

人にたいした関心を向けてこなかった俺が、こんなことを聞くなんて笑えてくる。


黙り込む梅野の答えを、知りたいような、知りたくないような、そういうヘンな感覚に陥った。






「……ないよ」



薄い唇が微かに笑って紡いだ否定。

なんの戸惑いもない、いつもの梅野なのに。



ほんの僅かだけ乱れた足取りと、口元とは反対に笑っていない愁いをはらんだ眼。


わかってしまった、今の言葉と表情の奥底に、触れないほうがいい嘘があることを。





「…そうか」


それ以上探ることはせず、もうすぐそこまで見えている分かれ道まで足を動かす。



「はい、これ」


いつもより多めのあめが手のひらを転がる。


俺が甘いのは好きじゃないと言わない限り、こうやってずっと梅野のあめを受け取ることになる。

いちごにメロンにぶどう、中を開けたこともないから形すら知らないそれをポケットに入れる。

どこで買ってるのか、時々行くスーパーなんかには売れていなかった。