しばらくして梅野がトイレで席を外すと、静かに英単語を書き写していた布瀬が急に顔をあげる。
「ゆいと仲良いんだね」
「は?」
「いや、初めて見たから、ゆいと夜市が話してるとこ」
まあ、そうだろうな。
事実、最近話し始めたわけだし。
「ゆいのこと、あんまりからかわないでね」
どうやらそれが本題だったらしく、さっきまで梅野に向けられていた穏やかな目に警戒が宿る。
「なんでそれ、俺に言うわけ?」
裏も表もない、純粋な疑問。
初めて話す俺を夜市と知っていた時点で、噂くらいは耳にしているだろうに。
夜市氷牙は遊び人。
楽しめそうな女には甘い誘い文句を適当に吐いて、面倒そうなのは相手にもしない。
俺からしても的を得ていると思う夜市氷牙のイメージ像がこの男のなかにもあるなら、警戒なんてする必要もない。
「俺は面倒なことには関わりたくないんでね。心配しなくても、べつにどうもしねーよ」