馬車が見えなくなったところで、ウィリアム様が私のほうを振り向いた。
心臓が跳ねる。
私の心臓は、ウィリアム様が応接の間に入ってきたあのときから不可解な動きをしている。
ウィリアム様は私の心臓に一体何をしたんだろう?
「リリーさんの部屋へ案内します。でも、その前に侍女を紹介させてください」
「じじょ?」
ドキドキしていて、たったひと言聞き返すだけで精一杯だった。
「ええ、侍女です。リリーさんの身の回りのお手伝いをしてくれる人です。彼女ですよ」
先程まで、メリー伯母さんの荷物を持っていた女性がお辞儀をした。
「イヴリンと申します。よろしければ、お荷物をお持ちします」
「えっ、自分の荷物ぐらい自分で運びます!」
メリー伯母さんは片足が不自由だったから理解できるけれど、私は健康優良児なのだ。
工房で金槌を振るって鍛えてきた腕は、どう見たってイヴリンさんよりも太い。
それなのに荷物を持ってもらうなんて、戸惑いしかない……



