イノシシにまたがったお兄さんが、台車を振り返った。
「忘れ物はない? それじゃあ、行くよ?」
私は大きくうなずいた。
「僕、台車を引っ張るのは初めてなんだよね」
サイラスは少し緊張しているように見えた。
『よろしくね』と言いかけたそのとき……突然、台車が勢いよく前へ飛び出した。
そういえば、イノシシに助走なんてものはないんだった。情緒のへったくれもない出発だ。
「わっわっわっ!」
私は慌てて台車にしがみついた。
「リリー、しっかり口を閉じろ! 舌を噛むぞ」
お父さんに言われ、私は口をぎゅーっと結んだ。
日が高くなる頃には、私の腕は疲れてガクガク震えていた。
これ最後まで耐えられる気がしないんだけど……
私は絶望的な気分になった。
がんばってくれているはずの大イノシシが恨めしい。



