「張っては、…いないです」

息を切らしながら、通常より少し上部を胸骨圧迫し続ける男性医師。
妊婦は子宮で横隔膜が上部へと圧迫されるからだ。

「心電図を調べています。患者に触れないで下さい。解析中です」

約一分おきに音声ガイダンスが鳴り響く。

「電気ショックは必要ありません」
「っ…」

再び胸骨圧迫が再開される。
夕映は新婦のベールやネックレスなども取り外す。

「次、代わります」

繰り返されるCPR。
胸骨圧迫を持続的にこなすのは大の男でもかなりきつい。
人工呼吸を担当している夕映は、少しでも末端の血管に血流が流れるように手足を摩る。

「心電図を調べています。患者に触れないで下さい。解析中です」

再び緊迫した空気に包まれる。

「電気ショックが必要です。体から離れて下さい」
「はぁはぁ…」
「あとは私が」
「……悪いな」

漸くショックボタンを押すことができた。

「電気ショックが行われました。心肺蘇生を始めてください。患者に触れても大丈夫です」

音声ガイダンスに従い、夕映は新婦の左側に位置取り、胸骨圧迫を始めた。
救急車が到着するまでの間、意識が回復する又は呼吸が再開するまでCPRは必須なのだ。

「辛くなったら遠慮なく言って」
「大丈夫ですっ」

男性医師の声に反応する夕映。
視界には新婦の手を握りしめながら祈るように額に手を当てる将司の姿が。
胸中は裏切られた感情でドロドロ。
けれど、体に染みついた技術は裏切らない。



「東京消防庁の―――」

救急車を要請してからおよそ九分。
すぐさま男性医師により引継ぎが行われ、夕映は横隔膜より頭側の位置に静脈ラインを確保した。