「夕食、お済ですか?」
「いや」
「簡単なものでよければ…」
「作ってくれるの?」
「私もまだなので。言っておきますけど、インスタントですよ?」
「フフッ、十分だよ」

このマンションに引っ越して来て、初めてゆっくりと泡風呂を満喫しようと思ったのに。
突然の彼の訪問で、そんな空気ではなくなった。

『食事でも』と誘ったのは私だ。
夕食の時間帯だから、もしかしたら彼が誘いに来たのかな?だなんてチラッと考えながら鍋で湯を沸かす。

「辛いの大丈夫ですか?アレルギーとかは?」
「アレルギーはないし、辛いのも平気だ」

何故、キッチンにいるのだろう?
私がインスタントラーメンを作っている横で、興味津々とばかりに見ている彼。
もしかして、インスタント麺が初めてとか?
……あり得る。

「あ、そうだ。フルーツ買って来たから」
「…ありがとうございます」
「黒瀬さんはアレルギーあるの?」
「食物アレルギーはありません」
「他にアレルギーが?」
「猫がダメなんです」
「あぁ、猫ね」

冷凍庫からシーフードミックスを取り出し、凍ったまま鍋に入れる。
冷蔵庫から絹ごし豆腐と卵も取り出し、準備OK。

醤油ラーメンにシーフードミックスと絹ごし豆腐、卵を入れた『スンドゥブラーメン』。
唐辛子とコチュジャンをほんの少し足したというだけの、ズボラ飯。

「おおおぉ~っ、なんか感動」
「まさかとは思いますけど、インスタント麺、初めてとか言いませんよね?」
「さすがにそれはないよ。研修医時代なんて寝る間もなくて、カップ麺やコンビニのおにぎりが定番だろ」
「フフッ、私は今も似たようなものですけど」