力なくへたり込んでいる私の目の前に屈みこんだ男性。
「あっ」
「こんにちは」
「あ、はい、こんにちは。あの時は大変お世話になりました」
五年間の恋に終止符を打った、あの日。
恋人の結婚相手である新婦を、共に救命した医師だ。
そっと差し出された手。
周りの視線を気にも留めず、スマートに立たせてくれた。
「すみません、立ち聞きするつもりはなかったのですが…」
「……あぁ、はい」
興奮して声が荒立っていたようだ。
天井の高い広いロビーで、夕映の声は響いてしまっていたらしい。
「住む所にお困りのようですが」
「……はぁ、そうなんです。何もかもが崩れていく気がして……」
「えっ、何ですか、それ」
クスっと笑いながら、ジャケットの内ポケットから名刺入れを取り出し、長い指先がスッと目の前に。
「私の名刺です。困ってることがあれば、いつでも連絡して下さい」
差し出された名刺には、『神坂総合病院 総合外科 医師 神坂 采人』と記されている。
神坂……神坂、神坂?!
「え、あの……、もしかして、神坂総合病院って……」
「はい、祖父の病院です」
おおおおおお、御曹司だ!!
噂では聞いていたけど、本当にイケメンだ!!
『パーフェクトDr.』と言われる神坂の御曹司。
高身長、高学歴、高所得はもちろんのこと。
端正な顔つき、色白で細マッチョな体型はモデル級、美的センスが完璧でブランド物を嫌味なく着こなし、極めつけは紳士的で柔らかな物腰と穏やかなイケボだという。
いた!
それも、何一つ漏れることなく完璧な、噂通りのその御方が。
「えっと、あの……」
慌てて自分の名刺を鞄から取り出した。



