(采人視点)

「神坂先生、体の方はもう平気なんですか?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配お掛けしました」

術後五日で退院し、その後自宅で三日ほど療養した。
担当している患者の状態も気になるが、不在にしていると要らぬ噂が広まりかねない。

傷口は完全に回復したわけではないが、日常生活は普通にこなせるまでに回復した。



采人が外傷を負った翌日に、犯人である例のストーカー男が逮捕された。

現場周辺の防犯カメラや采人の車のドライブレコーダー。
それと、ショッピングモールの防犯カメラにも犯人の男が采人と夕映をつけ回す証拠が残っていたのだ。

既に弁護士を通して示談交渉に入っていたこともあり、当然のように警察にストーカー被害を訴えていたのもある。
ストーカー行為による告訴をするには、十分なほどの状況証拠が揃った。

事件現場付近にいた一般人が撮影した動画がテレビ局に提供され、報道番組のニュースでも取り上げられたほど。
モザイクはかかっているが、病院内部の人間には既に周知の事実。
これ以上個人情報が漏洩しないようにと、水面下で指示が出された。



「采人、本当に明日からオペ出来るのか?」
「ん、大丈夫。今時、脳腫瘍のオペだって翌日には歩行訓練するでしょ」
「……だが、あまり無理はするな」

医局に顔を出すと父親がいて、翌日から通常勤務に戻ることを知った父親が心配で声をかけて来たのだ。

外科医はメスを握らなければ感覚が鈍る。
長期離脱していいことなんて何一つない。

「高野先生、明日のオペなんですが…―…」

采人は翌日に共に執刀する同僚医師に、最終確認の情報を共有するために声をかけた。