俺の視線の先には、紘の顔があった。いつもへらへらしている紘からは想像もつかないほどに、その双眸は真剣で、まっすぐに俺を捉えていた。息が漏れ、数瞬して、居た堪れなくなり、俺は顔を逸らしてしまいそうになった。それを見計らったように、紘が両手を力ませながら、捲し立てるように声を上げた。

「俺の目を見て聞けよ、瞬。今から大事なこと言うからな。瞬はフォークだ。ケーキを食べないと生きていけない。なら、喰え。喰いたければ喰え。その代わり、俺が死ぬ気でフォローしてやる。瞬がケーキを喰い殺さないように。ケーキが瞬に喰い殺されないように。それで瞬が孤立しても、俺だけは絶対に瞬の味方だ。何があっても、瞬を見捨てるつもりはない」

 堕ちるなら、俺も一緒に堕ちてやる。言い切った紘が、息を吸って、吐いた。俺も、彼とほぼ同時に、息を吸って、吐いた。意識せずとも、息が合わさった。

 暫しの間、俺と紘は見つめ合った。覚悟を決めたような強い眼差しが俺を射抜き、呼吸と共に胸が震えた。自分の欲求は異常なものだと思い、我慢しなければと舌を噛んでばかりいた俺にとって、紘のその言葉は衝撃だった。

 喰え。喰いたければ喰え。ああ、なんて、無責任な言葉なのだろう。紘に害はないから、喰え、などと簡単に言えるのだ。でも、そうだ。だからこそ。紘が言うからこそ。彼を信じてみたくなる。その後に続いた、口では何とでも言えるような台詞すら、不思議と信じてみたくなるのだ。

 バックに紘がいると思うだけで、ほんの少し気が楽になるようだった。が、だからといって、身勝手な振る舞いをして彼に甘えるつもりは毛頭ない。喰いたいなら喰うとしても、それはどうしても堪えられなくなった時に限った話だ。その時に、紘がいてくれればそれでいい。