味覚を失ってから、二ヶ月以上は過ぎた。つまりそれだけ、俺は何も味のする物を食べられていないということだった。

 ケーキのパートナーは今も変わらずいない。ケーキと触れ合うようなこともしない。俺はケーキを食べていない。一口も、舌で味わえていない。

 その反動か、二ヶ月前よりも一ヶ月前、一ヶ月前よりも一週間前、一週間前よりも昨日、昨日よりも今日の方が、フォーク特有の食欲が酷かった。

 ケーキがいなくても、ケーキなんか食べなくても、自分は生きていけると、自分は大丈夫だと、内心高を括っていたことが仇となった。

 ケーキを食べずに生きるなんて無理だ。あの美味しそうな匂いを放つケーキを、今後一切補給もせずに生きていくなんて、無理だ。

 どこかのタイミングで、それこそ定期的に、自分の気が狂わないように、自分の精神を安定させるために、覚悟を決めて食べるか触れ合うかしなければ、ある日どこかでケーキを見た瞬間に、言うなれば、クラスメートであり、俺にとって一番身近なケーキでもある篠塚を見た瞬間に、我を忘れて暴走してしまう。そんな気がする。そんな気がしてならない。

 自分を見失い、ケーキに襲いかかるフォークは、食べることを我慢し続けた故の本能的な行動なのではないか。

 ああなってしまったら終わりだ。ああはなりたくない。なってはならない。自分を制御できないことは恐ろしいことだ。制御できる上で、意図的に殺して喰うこともまた、恐ろしいことだ。

 今朝、ニュースを見て知った。また、一家殺害事件が起きたようだ。その被害者の内の一人がケーキで、以前のように食べられた痕が残っていたという。もっと言えば、身体の一部のみを奪い、死体の転がるその家に止まって食したような痕が。想像しただけで胸糞が悪い。