隣の部屋へ続く戸を開けると、黒い幕が下ろされています。
「入ってください」
戸を押さえたまま言うので、わたしは幕をめくって中に入りました。
そこは一畳ほどの小さな部屋で、大きな機械がひとつ置いてあります。
壁には小窓がひとつあって、そこから明かりが差していました。
あなたは戸を閉めて、機械の前に座りました。
「この機械は引き伸ばし機と言って、ネガから印画紙に画像を焼き付けるためのものです」
持ってきたネガを金属の枠に挟み、ゴム製の送風機を使って手動で風を送りました。
「何してるの?」
「こうやって埃を飛ばすんです。どんなに細かい埃でも、写真にすると目立つので」
そしてその枠を機械に取り付けました。
すべての用意を終えて、小窓にある黒いカーテンを引くと、たちまち部屋は真っ暗になります。
機械のスイッチを入れたら、小さな明かりが灯りました。
ネガを通して、弱々しい画像が映し出されます。 機械のつまみを動かすと、映し出される画像が大きくなったり小さくなったりします。
その画像を受け取るように紙が置かれました。
「こうして大きさを決めたら、印画紙を置いて焼き付けていきます」
ここは街中であるはずなのに、ひどく静かでした。
かすかな機械音とわずかな風の音しか聞こえません。
金属と機械油と埃の匂いがします。
締め切った狭い部屋に機械熱と体温が混ざり合い、室温はどんどん高くなっていくようでした。
唐突に、あなたが渋った意味が理解できました。
暗闇は、あなたとわたしの境さえも曖昧にしてしまうのです。
あなたの服の袖がわたしの腕をかすめました。
ひそやかな呼吸音。
あなたの匂い。
印画紙に添えられた指先。
「次は現像です」
すっかり動揺していたわたしのすぐそばで、あなたは淡々と言いました。
引き伸ばし機の電気を消して立ち上がり、さらに奥へ続く戸を開けます。
そこは一段と暗く、少しひんやりとしていました。
小窓どころか、星明かりひとつありません。
じめじめと空気が重たく、何か酸っぱい匂いがします。
お酢や果物のように食欲をそそる匂いとは違う、不思議な匂いです。
入ったところで立ち尽くしていると、部屋の戸が閉められました。
夜を煮詰めたように真っ暗です。
自分の輪郭さえわからなくなるほどの闇でした。
「入ってください」
戸を押さえたまま言うので、わたしは幕をめくって中に入りました。
そこは一畳ほどの小さな部屋で、大きな機械がひとつ置いてあります。
壁には小窓がひとつあって、そこから明かりが差していました。
あなたは戸を閉めて、機械の前に座りました。
「この機械は引き伸ばし機と言って、ネガから印画紙に画像を焼き付けるためのものです」
持ってきたネガを金属の枠に挟み、ゴム製の送風機を使って手動で風を送りました。
「何してるの?」
「こうやって埃を飛ばすんです。どんなに細かい埃でも、写真にすると目立つので」
そしてその枠を機械に取り付けました。
すべての用意を終えて、小窓にある黒いカーテンを引くと、たちまち部屋は真っ暗になります。
機械のスイッチを入れたら、小さな明かりが灯りました。
ネガを通して、弱々しい画像が映し出されます。 機械のつまみを動かすと、映し出される画像が大きくなったり小さくなったりします。
その画像を受け取るように紙が置かれました。
「こうして大きさを決めたら、印画紙を置いて焼き付けていきます」
ここは街中であるはずなのに、ひどく静かでした。
かすかな機械音とわずかな風の音しか聞こえません。
金属と機械油と埃の匂いがします。
締め切った狭い部屋に機械熱と体温が混ざり合い、室温はどんどん高くなっていくようでした。
唐突に、あなたが渋った意味が理解できました。
暗闇は、あなたとわたしの境さえも曖昧にしてしまうのです。
あなたの服の袖がわたしの腕をかすめました。
ひそやかな呼吸音。
あなたの匂い。
印画紙に添えられた指先。
「次は現像です」
すっかり動揺していたわたしのすぐそばで、あなたは淡々と言いました。
引き伸ばし機の電気を消して立ち上がり、さらに奥へ続く戸を開けます。
そこは一段と暗く、少しひんやりとしていました。
小窓どころか、星明かりひとつありません。
じめじめと空気が重たく、何か酸っぱい匂いがします。
お酢や果物のように食欲をそそる匂いとは違う、不思議な匂いです。
入ったところで立ち尽くしていると、部屋の戸が閉められました。
夜を煮詰めたように真っ暗です。
自分の輪郭さえわからなくなるほどの闇でした。


