「素材集めもまともにできない無能はここから出て行け」

「えっ……」

 十時間後に目覚めた私は、ババロアの部屋に呼び出されてそんなことを言われた。
 寝不足の不調から僅かに解放されて、頭はそれなりにすっきりしている。
 だからこそババロアからの言葉が、より鮮明に頭の中に響いてきた。

「出て、行け……? ということは……」

「言わねばわからんのか? 徒弟を破門とし、俺のアトリエから解雇するという意味だ。今すぐに荷物をまとめてここから出て行け」

「……」

 無慈悲なその宣告に、血の気がすっと引いていく。
 アトリエからの解雇。
 それだけは絶対にダメだ。
 五年の徒弟期間を終えられずに解雇されてしまったら、他のアトリエでも雇ってもらえなくなる。
 修行に耐えられずに逃げ出した“根性なし”と見做されてしまうからだ。
 せっかく三年間、ババロアのアトリエで苦しみに耐え続けたっていうのに。

「お願いします、まだここにいさせてください……! もう絶対に、見苦しい姿はお見せしませんので……」

「与えられた役目も果たせず、他の職人たちの手も煩わせた無能をこの先もアトリエに置いておけと言うのか? 馬鹿も休み休み言え」

 必死な懇願も、ババロアに一蹴されてしまう。

「最近は特にうちのアトリエは波に乗りつつあるのだ。俺の商品の品質に惹かれた客たちが次々と依頼を寄越してくる。そんな中で失態を晒した徒弟を見過ごしたとなれば、他の職人たちの気の緩みやアトリエの悪評に直結しかねない」