宮廷錬成師の手伝いとして最初に任されたのが、騎士たちが使う傷薬の製作でした。
 いきなり責任重大すぎる。
 最初は簡単な素材採取だけって言ってなかったっけ?
 それに確か、開拓師団が魔物領域に厄介な魔物の巣を見つけて、そのための武器と薬が大量に必要って言っていた気がする。
 その分の傷薬を、私が作るってことだよね?

「い、胃が痛いよぉ……」

 充分に性能を満たしている傷薬を作らないと、騎士団に迷惑をかけることになる。
 下手したらそれが原因で、騎士さんたちに大怪我をさせてしまうかもしれない。
 半端ではないプレッシャーが震えとなって全身を駆け巡る。
 とにもかくにも素材がなければ始まらないので、私は重圧に苛まれながらも、朝早くからブールの森に来て素材採取をしていた。

「キュルル!」

「【風刃(エアロエッジ)】!」

 襲いかかって来る溶液(スライム)を迎撃する形で討伐していく。
 作成を頼まれた薬は、先日試験で作ったものと同じ『清涼の粘液』。
 だから必要となる素材はすべてこのブールの森で採取ができる。
 危険度の高い魔物もほとんどいないため、比較的安全に素材採取が可能だ。
 ババロアのアトリエにいた時に向かわされていた採取地に比べれば本当に可愛いものである。
 だから別に気張る必要はないんだけど、問題は素材採取をした後なんだよね。

「昨日は上手くできたけど、今度はちゃんとできるかな……」

 溶液(スライム)の粘液を瓶に詰めながら、私は胸中の不安を口に出す。
 これまでほとんど錬成術の修行ができていなかったのに、いきなり王国騎士様たちが使う傷薬を錬成するなんて思ってもみなかった。
 素材採取をするだけならそれなりの自信があるんだけど、実際に錬成をするとなると不安は止まらない。
 ……いや、これはむしろ絶好の機会と捉えるべきだろうか。
 これまでブラックなアトリエで素材採取しかさせてもらえなかった私が、錬成師としての腕を広く伝えることができる機会。
 これが上手くいけば、錬成師として技量を認めてもらえて、品評会への出品もより現実的になるかもしれない。
 加えてギルドに滞っている“実力不足の噂”も解消することができるかもしれないし、ちょっとやる気を出して頑張ってみますか。

「それにしても……」

 私はたった今採取した溶液(スライム)の粘液を見つめながら、今さらの疑問をこぼす。

「『採取した素材に上等な性質を付与』、だったよね」

 いつの間にか授かっていた称号――【孤独の採取者】。
 それに付随しているスキルの効果は、『採取した素材に上等な性質を付与』するというものだ。
 こうして素材として拾ったものに、性質を付与する力というのはなんとなく想像がつくけど……
 “採取した素材”って、どの辺りから“採取した”って判定になるんだろう?
 素材として拾ってリュックの中に入れたら?
 それとも素材に触れたら?
 だとしたら他人の採って来た素材に触れても性質を付与できるのかな?

「……ちゃんとその辺りのこと、知っておいた方がいいよね」

 私は素材採取のついでに、自分の【孤独の採取者】の称号についても調べてみることにした。