「そろそろ、お迎えが来そうやな」

「そうだね……」

 まだ太陽の光は見えないけど、太陽は確かに近づき空を照らし始めていた。

「あの世ってどんなところなんだろう」

「天国とか地獄とか、やっぱあんのかな」

 チヒロは病死だって言ってくれたけど、やっぱり自殺した私は地獄域だったりするのかな。

「チヒロはきっと天国行きだよ」

 ぎゅっと、チヒロの手を握り締める。

「フーカも天国やって。こんな優しいねんから」

 チヒロが私の目を見て微笑みかけてくれる。

 こんな気持ちになれるなら、死んだ後悔も薄れる気がした。

 チヒロに会えてよかった。

「ずっと死ぬん怖かったけど、フーカが一緒やったら怖ないわ。あの世もきっとええとこやろ」

 二人で話しながら空を見上げる。

 明るさが増していく。

 夜明けを見るのは、生まれて初めてだった。

 すごく、不思議な感じがする。

 夕焼けの逆バージョンなだけで、たいした違いないだろうって思ってた。

 でも、全然違う。

 夕焼けよりもずっと優しい。

 地球が回っていることを実感する。

 太陽が昇ってくるんじゃない。

 太陽がいるほうを、私たちがのぞき込んでいる。

「キレイやな」

「うん……」

 太陽がその姿を現す。

 存在するすべてのものが長い影を落とすけど、私たちの足元にはどんな影も生まれない。

 このまま灰になったりしないかちょっと心配になったけど、私たちは変わらずそこに立っていた。

「ああ、おりました。おりました」

「お待たせしまして、大変申し訳ありません」

 私たちの元に、十二単の猫と水干の犬が現れた。