だから女の子の手は、いつも荒れていた。


ハンドクリームを塗ってくれる優しい母親はいない。

自分がやると言ってくれる優しい父親もいない。


部屋の掃除だって、掃除機を使うのは禁止。


その理由はうるさいからだそうだ。


こっちは仕事で疲れて寝ているのに掃除機の音がうるさくて起きてしまうと以前、怒られたことがあった。


その時は腕を殴られたっけ?

いや、真冬の中薄着で一日中外に閉め出されていたっけ?

覚えていない。


かといって掃除をしないと怒られる。

してもしなくても怒られるなんて理不尽すぎる。


そりゃあ大人になって社会に出れば理不尽なことだらけだろう。
自分が使ってもいない食器を洗う羽目になるだろう。

でもまだ幼い子供がそんなことを覚えなくていい。


しかし女の子は覚えてしまった。
覚えざるを得なかった。


女の子はそれ以来、掃除機を使わず、家にあった小さいちりとりでざっとゴミを取ってから雑巾をかける。


雑巾はすぐには洗わず、雑巾についた、ちりとりで取りきれなかった髪の毛や固まった埃など、手で取れるものをあらかた取ってから雑巾を洗う。

そこまでちゃんとやっていた。それでも·····