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「もしもし、お母さん?」




 夜、寮にもどってきた私は、スマホに着信があることに気づいて、部屋のトイレで応答した。

 ルームメイトは気が置ける親友だけど、家族との電話を聞かれるのはちょっとはずかしいから。




《もしもし、景依(けい)?いままで授業だったの?》


「ううん、看守のほう。電話出れなくてごめんね」


《大丈夫よ。遅くまでお疲れさま。大変じゃない?》


「うーん、もう慣れたから」




 早起きだし、1日中気を張ってないといけないし、最初は大変だったけど。

 なりたかったものになれてる現状を、いやだとは思わない。




《そう、よかった。でも、むりはしないでね》


「あはは…約束はできないかも。刑務官だし」


《…お母さん、心配だわ。景依、本当にやっていけてるの?かわいいし、体もちいさい景依が受刑者のなかで…》


「大丈夫だって。私、これでも2年の首席なんだよ?それに、ちいさいはよけい」