鳩野(はとの)さんを壁のまえに立たせて、どん、と両手をつく。

 ちょうばつ房のなかならだれも来ないし、ここにいる受刑者もいないいま、だれに聞かれる心配もない。

 私は腕のなかに閉じ込めた鳩野さんを、バッと見上げた。


 どくどくと、鼓動の音が大きく聞こえる。




「…なんですか」


「私は、男がきらいなの。父親がろくでもない犯罪者で、よく刑務所に入ってて…どうしようもないクズを間近で見てきたから、男がだいっきらい」


「はあ」


「私がこの学園に入ったのは、父親みたいなクズの性根を叩き直して、再犯させないようにするため」


「…だから、なんです?そのはなし、いま関係ないと思うんですけど」




 無表情で、じとっとした半目のまま、鳩野さんは視線を返す。

 私もなんでこんなはなしをしたのかわからないけど。

 たらりと、あせる気持ちが雫となったように、こめかみに汗が伝う感触がした。