「いいでしょ,ジュナさんって。かわいくて」



常識外れな言動も,中にあるのは無邪気と素直。



「俺ね,昨日考えてたの。どうしたらジュナさんと仲良くなれるかなって」

「……百歩譲って,それが動機だとして。どうしてさっきみたいな話になるんですか?」



私は突飛な話の割にあまりにも普通な態度を貫く桜井くんを見て。

私達は桜井くんと言うある意味大きな存在を前にして,何か勘違いさせられているのではないかという仮説にたどり着く。

ようやく思考を取り戻し,落ち着いて尋ねると



「んー? どうしてって,だってそれが1番"近い"でしょ?」




桜井くんは,それを異常と自覚しないまま放った。

桜井くんが普通を離れれば離れるほど,私の頭が落ち着いていく。

何故か桜井くんは私に近づきたがっていて。

桜井くんの中では,私に1番近い居場所が恋人の席だから。

なんだ。

とうとう落ち着きを通り越して,ほっと安心してしまう。

桜井くんの思考回路は壊滅的だけど,つまり



「桜井くんは,私と親しくなりたい……?」



桜井くんは微笑んで,ひとつ頷いた。

それを見た私は,迷いなく口を開く。



「どちらも,お断りします」



そしてゆっくりと,静かに。

ただそれだけを告げた私は,桜井くんを教室から追い出した。