唇を隠して,それでも君に恋したい。



「伊織」



初めて聞く,今までで1番真剣な声。



「僕,ほんまに伊織ともっと話したいことがあるんや。それだけやない,試したいこともある。今日,空いてない?」



和寧は似合わない真面目な表情で口説くようなことを言って,僕の腰を抱いたまま離さない。



「話って……僕には……それに,約束があるんじゃないの」



困った僕は一旦離して貰おうと腕をぐいぐいと押した。



「明日埋め合わせれば大丈夫だよ,多分」



それに,と和寧は長い睫を伏せる。



「本当はもっと仲良くなってからと思ってたけど,伊織警戒心強過ぎだから。もういいかなって」



和寧がまだそこにいた後輩の女の子に目を向けると,雰囲気を察したその子は去っていった。

その瞳が僕をとらえる。



「僕は君に,伊織に会うために転校してきたんだ。少しでいい,僕に付き合ってくれんかな」



僕は戸惑って,思わず言われたことを頭で反芻した。

僕に会うためにって……

僕には特別な才能があるわけでも,スポーツや文化系の部活に入ったり,成績を残したりしてるわけじゃない。

にもかかわらず,僕を名指しする。

僕が他人と異なるところと言えば。

S·Pとして生まれてきたと言うこと,くらい。

僕は睨み付けるように和寧を見て,話が何であっても構わないと1度瞬きをした。