「あねぇそう言えば。伊織,化学の課題ちゃんとやって来た?」
「は?」
いつものちょっかいだと思った後ろからの声かけに,僕は思わず目を見開いて振り返る。
「昨日,休み時間に化学のおっさん来たんやけど,伊織いなかったような気がして」
「なっんでその時言わないんだよ!!」
「だって……ほら」
頬杖をついたまま,からかうような表情を浮かべた和寧はワークを取り出す。
「56~62。1限目だけど,欲しい?」
最悪だ,こいつ。
僕にこれを言うためだけに,気付いていながら黙ってたのか。
きっと大した問題数じゃないけど,バカ真面目にやってあと10分なんかで終わるはずもない。
頭の固い化学の教科担当は,回答用紙も学期の最初に回収しているし,教えて貰えなかったなんて言っても納得はしないだろう。
「うるさいな。和寧のせいなんだから黙ってちょうだい。それで今回のことは許してあげるから」
「仕方ないなぁ,はいどーぞ」
「本当に全部あってるの? 適当にやったんじゃないよね,僕が間違えたと思われるからちゃんとしてないとやっぱり許さないから」
「いらないならいーんだよ? 伊織クン」
うるさいな,と。
また僕はカリカリしながらワークの()を埋めていった。
口を動かす暇なんてない。



