「リュー,ごめんね」
「いや,別に。俺は気にしてない。……それより」
ー混乱してるだろうし,放課後話がある。
話……???
僕はリューを見上げて,ふと彼の唇に目を止めた。
さっき,確かに触れた。
お互い驚いたせいで口も開いて,仮にもソフトとは言えないキスだった。
なのにどうしてリューはこんなにも……
「あ,リュー。口切れてる……洗いに行こ。ごめんスズ,間に合わなかったら適当に言っといて」
「……おー」
僕はリューを引っ張って,男子トイレへと向かう。
教室を出る直前,取り残されたように立ち上がる百合川さんに僕は言った。
「僕と君は今日で初めましてだし,君の想いも断った。それに,僕は君に対してなにもしていない。それは,いいよね?」
初めて僕を好きだと言ってくれたのに。
それはきっと,とても勇気のいることなのに。
これ以上,彼女に向けられる優しい言葉が見つけられなかった。
淡々とした温度のない言葉たち。
最後に見つめた瞳に,僕は少しの哀れみを乗せて立ち去る。
夏とはいえ,出てくるのは冷たい流水。
僕は本人を目の前に多少の気まずさを覚えながら,リューの隣で唇をすすいだ。



