唇を隠して,それでも君に恋したい。




百合川(ゆりかわ) (ひめ)となー。ちょっと」

「え! なに?」

「デキてるってウワサ。でも……しかも姫の方がフラれたっぽいんだよねー~」



また,出た。

余程有名な人なんだろうか。

しかもよりにもよって僕とデキてるって,なんだそれ。

僕には女子と接触する機会すら殆んど無いのに,名前も知らない女子と噂されるなんて寝耳に水過ぎる。



「え,そうなの? デキててフラれたっつーか。告ったら突き飛ばされって聞いてるけど。なんか人に触られるの嫌がるとか」

「なにそいつむかつく~!! あの姫を捨てるだの突き飛ばすだの何様だって」



あぁ,最悪だ。

完全に出ていくタイミングを無くした。

このまま出ていけば,よくて睨まれ,悪くて突っかかられるに決まってる。

否定したいけど……

噂には多分色々混ざってる。

触られるのを拒否することは往々にあるし,僕はそれについて言及されるととても困る。

でも,それで他人を,ましてや女の子を突き飛ばしたりした事はない。

僕も何がなんだかよくわからないし,掃除場所を共有している他クラスの男女も,噂を回す割りにはよく分かっていなそうだった。

本人に話を聞いてみる……?

それはそれで,人に見られたら厄介だな。

こう言うときに限って三太もいないんだから,勘弁して欲しい。

三太なら能天気に突っ込んでいって否定してアリバイも証明してくれただろうに。

不本意だけど……

僕も掃除はあの人たちに任せてサボろう。

僕は程よく時間を潰して,教室へと戻った。