「ね,伊織くん! 私でも役に立つでしょう? 毎日ここにいるなら,誰にも話しかけられないように,私も毎日隣にいるよ。絶対に邪魔しないし,だから……ね? お願い。居ても良いでしょ?」
百合川さんは僕を振り返って,不安そうに求めてくる。
「僕は君に何もあげないよ」
「いいよって言ってくれたら,それだけで十分くれたことになるよ」
僕は図書室の椅子を引きながら,はーと長いため息を吐いた。
この子といると,こんな気持ちにばかりなる。
「好きにしなよ。僕もそうするから」
適当に借りてきた赤本を開いて,僕は頬杖をついた。
邪魔しないといった割には,時折楽しそうに話しかけてきて。
それでも適当に相槌を打っていれば,それたけで満足しているようだった。
いつまでも楽しそうにしている百合川さんの声を聞いていると,なんだか安心して。
僕はいつの間にか眠っていた。
目が覚めると,百合川さんは居ない。
変わりに僕の背中には彼女のカーディガンがかけられ,あげた胴体の下には『お疲れさま♡ またね。ユリユリより』とメモが置かれている。
僕はそれを丁寧にしまって,またため息をついた。
それから,彼女は本当に毎日やってきて,それどころか迎えにも来る。
図書室では何度も声を落としてと言わなくてはいけないほど,ずっと歌うように僕へ話しかけ続けた。
他愛もない話だ。
何組の誰がどうしただの,何が可愛かっただの。
たまに僕に好きだと挟んでくると,僕はつい顔を上げてしまう。
困ってしまって返事をためていると,話題はいとも簡単に移ろった。
百合川さんは,いつも立ちっぱなし。
僕の直ぐ側に片手を置いて,時折机に軽く座るのを僕が注意する。
それに気づいて,僕は。
ある日,初めて自分から百合川さんに声をかけた。



