敦は何も言わない。
僕はそっと,外していたマスクを耳に掛けた。
途端,敦が苦しそうな顔をする。
その敦に,僕はにこりと笑顔を向けた。
ばいばい,敦。
敦がうつ向く。
僕らの間に,もう言葉は必要ない。
その眉間は狭くなり,歯は痛みそうなほど食い縛られて。
強く震える拳に僕は困り笑い,そっと,目線を外した。
中途半端に,恋を持ち込んでごめんなさい。
次はどうか,まともな恋が出来ますように。
その震える拳が,優しさが,どうか無駄になりませんように。
ずっとずっと失われませんように。
僕は動けない敦の代わりに,敦だけもう一周と頼んで1人で帰った。
来た時は2人だったのに。
だけどこれは,今日が来る前から決まっていたこと。
覚悟していたこと。
なのに,痛い。
胸が痛くて仕方ない。
泣くな、泣くな。
お願いだから,止まってくれ。
僕の恋の終わりを,僕に知らしめないでくれ。
今だけは,あの人生最後のキスを。
幸せだったと思わせてほしい。
僕は,また,敦に出会う前の空っぽな感情を抱きしめて。
長い夜に眠った。



