相手は王族。中流貴族である伯爵家が断れる相手ではない。つまり、婚約をルーリエの意思で回避するのは不可能だ。先ほど目が合った時点で詰んでいたともいえる。
 これでため息をつくな、というほうが無理な注文だ。
 木の葉がさやさやと揺れる音がする。後ろでは、舞踏会を楽しむ談笑の声と美しいメロディーが絶えず流れている。
 夜風で翻った、腰まで伸びたローズピンクの髪を手で押さえながらルーリエは黙考する。

(十中八九、わたくしを嵌めたのはヘレンの仕業でしょうね。でも彼女は貧乏子爵家の養女。領地は赤字経営で、余分なお金があるとは思えない。誰かを雇い入れる資金がないとすれば、資産家の息子あたりを籠絡して資金と味方を増やしたのかしら……?)

 過去に戻れても、同じ未来を辿るなら巻き戻った意味がない。