冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる

「……ああ、その話ならご心配なく。魔王とはすでに新たな盟約を結んでおります。人間界と魔界の協定をすり抜けて潜り込んできた輩は、魔界でしっかりお灸を据えてくれるそうです。よかったですね、優しい主君に恵まれて」
「は……盟約? 協定?」
「魔王は良識のある方でしたよ。そうでなければ、私は彼を切り刻んでいたでしょう。転移術で現れた魔法使いに驚くことなく、実力差を瞬時に見抜いた。そして私の望みを聞いたうえで、妥協案を提示した。英断です。誰にでもできることではありません」

 さらりと爆弾発言を落とし、会場内がしんと静まりかえる。
 イグナーツは最年少で魔法省長官に就いたエリートだ。魔力は世界トップクラスと聞く。しかし、単身で魔王と交渉してくる人物だと誰が予想できようか。
 もはや人類の敵は魔王ではない。

 イグナーツ・クラインに逆らってはいけない。