冤罪から死に戻った悪女は魔法伯の花嫁に望まれる

 目尻がつり上がった濃い化粧は、元の姿と似ても似つかない。変化が解かれたせいか、ヘレンの足元からはどす黒い靄が立ちこめている。それが余計、彼女がこの世なるざる者だと否応なしに意識させる。
 悪魔は絵本に出てくる架空の生き物。多くの人はそう思っていたはずだ。しかし、目の前で姿形が異形の者に変わるのを見てしまった以上、どんなに信じたくなくても現実だと受け入れざるを得ない。

(これがヘレンの本来の姿……。本当に悪魔だったのね。だから人間ではありえないことができた。イグナーツ様の見立て通りね)

 心の中で納得していると、イグナーツが朗々とヨハニスの罪状を述べた。

「殿下。あなたは結界で守られている王城に自ら悪魔を招き入れた。そればかりか、その正体に気づかないまま伴侶にすると誓ってしまった。もう手遅れです」